遺言書と言えば、手書きで作成し、封筒に入れて割り印を押して、表書きにデカデカと”遺言書”と書かれている姿を想像する方がほとんどでしょう。
しかし、遺言書にもデジタル化の波が到来しそうです。
2023年内に法務省が研究会を立ち上げ、2024年3月を目標に、デジタル遺言書の方向性を提言予定と相成りました。
デジタル遺言書はいつから、どんな感じで利用できる?
こんなギモンに現段階での予想をお答えします。
本記事をご覧の方は
という方が多いのではないでしょうか。
本記事では、デジタル遺言書がどうなるのか、何が検討されているのかについて解説します。
もしデジタル遺言書が始まったら、ぬくぬくも作成する予定ですよー
5分くらいで、デジタル遺言書になるとどうなるのか、考えられるメリット・デメリットが分かりますので、ご一読いただけますと幸いです。
おさらい:現在の遺言書は?
そもそも、現在の遺言書には種類があり、民法で記載ルールが決められています。
しかも、既に自筆証書遺言保管制度で、遺言書のデジタル保管は始まっています。
どういうことか、ポイントを知っておきましょう。
遺言書の種類
現在、遺言書には「普通方式」と、事故や災害時など生命の危機が迫っているときのみ認められる「特別方式」の2種類が認められており、以下の7種類があります。
デジタル遺言書では、この「普通方式」に「デジタル遺言(仮)」が追加される方向で検討が進むと思われます。
参考リンク「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の特徴と書き方は?
自筆証書遺言は、民法で「手書き」「押印」を指定されている
(自筆証書遺言)
明治二十九年法律第八十九号 民法
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
自筆証書遺言は、民法で「手書き」「押印」の旨が明記されています。これを満たさないと遺言書とは認められず、ただのメモ書き扱い。
今の時代では古い!と思うかもしれませんが、「手書き」「押印」である理由があります。
- 手書き・・・自筆証書遺言は、難しい法的要件を満たして自書することで「遺言者がその内容を認識・理解したうえで作成した」ことで「遺言者の真意に基づくものである」という担保を取っている。
- 押印・・・当該遺言が遺言者本人の意思によって作成されたものであることを担保する+押印により文書を完成させるという慣行により、「作成途中の遺言書の下書きと完成した遺言書とを区別する意義」も有している
要は、上記2点と同等の担保をデジタル的に解決できれば、新たな遺言方式(電子自筆証書遺言?)を設けることが可能ということになります。
参考リンク法務局保管対応の『遺言書の書き方』を7ステップでかんたん解説!
既に自筆証書遺言保管制度で、「保管」はデジタル化されている
先述しましたが、既に自筆証書遺言は、「自筆証書遺言保管制度」で、デジタル的に遺言保管所(=法務省)へ保管する制度が始まっています。
デジタル遺言書が始まれば、この流れに乗せられることになるでしょう。
参考リンク『自筆証書遺言保管制度』とは?手続きの流れをわかりやすく図解!
紙の遺言書とデジタル遺言書の違いは?
紙の遺言書とデジタル遺言書で想定される違いは以下のとおり。
デジタル遺言書 | 自筆証書遺言 | |
---|---|---|
本人確認 | マイナンバーカードの 利用者証明用電子証明書+自撮り撮影 による複合認証 | 全文自書 |
真意の確認 | マイナンバーカードの署名用電子証明書 | 押印 |
変造・偽造・紛失 | ブロックチェーン | 紙で保存 |
日付の記載漏れ | 電子署名時のタイムスタンプで特定 | 〇年〇月吉日など無効 |
本人の遺言能力 | 課題① | 遺言者の遺言能力の有無 |
本人の自書に依るか否か | 課題② | 筆跡鑑定等による対応 |
改ざん防止 | 電子署名・タイムスタンプ | 法務局の自筆証書遺言保管制度 |
相続割合指定 | 入力 | 手書き |
財産目録 | 入力 | 手書き・印刷物可 |
寄与分 | 介護者へ | 手書き |
変更 | 既存修正? | 取り消し・押印・変更記載・変更点を 文で記載 |
本人確認や署名などは、マイナンバーカードの利用者証明用電子証明書および署名用電子証明書の公的個人認証サービスを活用ですれば、実現できるのは明らかでしょう。(むしろ活用しないでどうする!という感じです)
比較してみて、デジタル遺言書が利用可能になった場合に想定されるメリット・デメリットを見ていきましょう。
デジタル遺言書のメリット
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリットは以下のとおり。
メリット①:遺言の不備(無効な遺言)を無くせる
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット1つ目は、自筆証書遺言書を作成するときの複雑な要件を満たす必要がなくなることです。
これまでは、押印が無かったり、記載方法に不備があったり、複数の遺言書があってどれが最新かわからなかったり、いわゆる争続になるケースがありました。
しかし、例えば、法務省などが指定した入力画面で、相続人や財産ごとの相続割合などの必要事項を入力するだけで、自筆証書遺言の条件を満たした遺言書を作成できるようになるでしょう。
メリット②:作成時間が短くなる
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット2つ目は、手軽に遺言書を作成できるようになることです。
あなたは自筆証書遺言書を作成したことがありますか?
内容が乏しく、たった一枚ぺらの内容だったとしても、手書きはしんどいです。
しかも、こう言ったかしこまった書類は、綺麗に書きたくなるのが人間の性。普段字を書かない人にとって、苦になること請け合いです(笑)
ということで、個人的には、デジタル遺言書の最大のメリットと推したくなるメリットですね。
メリット③:専門家のサポート不要
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット3つ目は、専門家のサポートがなくても、自分で遺言書を作成できるようになることです。
複雑な条件を満たさなければならない自筆証書遺言書。司法書士などの専門家のサポート、というか丸投げで遺言書を作成する人も多いでしょう。
専門家に依頼すれば、当然お金がかかります。
したがって、自分で遺言書が作成できるとなれば、金銭的にも一定のメリットが期待できるでしょう。
メリット④:保管場所に困らず済む
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット4つ目は、クラウドや法務局(遺言保管書)など、保管場所に困らず済む、ということが期待できることです。
自筆証書遺言保管制度も適用されれば、法務局(遺言保管書)で保管できるかもしれません。
また、遺言書情報証明書(相続人が各機関で手続きに使う書類)の申請も対面申請が不要になるかもしれません。
メリット⑤:遺言が見つけられないまま相続されるケースが減る
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット5つ目は、遺言が見つからないまま相続されてしまうケースが減ることです。
中には自分の財産を渡したくない人もいるでしょう。
せっかく、遺留分にも配慮して渾身の遺言書を作成しても、見つからなければ意味がありません。
あなたの生前の努力が水の泡です。
そうならないように、デジタル遺言書として作成しておき、何かあったとき、あなたが指定した相続人に通知されるような仕組みになれば、遺言書が見つからないまま相続されるケースは減るかもしれません。
メリット⑥:内容変更もかんたんに?
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット6つ目は、遺言の内容をかんたんに変更できるようになるかもしれないことです。
※これは私個人の希望です。
自筆証書遺言書の場合、本文の内容を訂正するとき、「取り消し線+修正内容記載+修正した部分を文で記載+訂正印」という面倒な訂正をしなければなりません。
デジタル遺言書になれば、内容を変更して、署名用電子証明書を付与すれば、変更履歴も残せるので、要件は満たせるので、かんたんに遺言の内容を変更できるようになるかもしれません。
メリット⑦:家庭裁判所の検認も不要に?
デジタル遺言書になった場合に想定されるメリット7つ目は、家庭裁判所へ申し立てが必要な遺言書の検認が不要になるかもしれないことです。
※これは私個人の希望です。
通常、自筆証書遺言書の場合、封を開けずに、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
被相続人が亡くなって、葬儀やら名義変更やら、何かと忙しいときに、わざわざ家庭裁判所へ出向かなければならないなんて、面倒。
デジタル遺言書になって、遺言保管所(法務局)で保管してくれる自筆証書遺言保管制度も適用されるなら、家庭裁判所での検認が不要になるかもしれないですね。(願望)
デジタル遺言書のデメリット(課題)
デジタル遺言書になった場合に想定されるデメリットは以下のとおり。
デメリット①:本当に遺言者の意図とした遺言書と担保できるか
デジタル遺言書になった場合に課題とされている点1つ目は、遺言者本人の意図した遺言書であると担保できるかわからない点です。
簡単に自分で作れるようになるかもしれないからこそ、第三者が介入しやすくなります。
したがって第三者が不当に関与するリスクを排除しきれるかが課題となります。
デメリット②:押印を廃止して「下書き」と「完成版」を特定できるか
デジタル遺言書になった場合に課題とされている点2つ目は、押印の取り扱いを排除できるか、という点です。
押印には、遺言者が本人の意思に基づき作成されたもの、を担保するのと、「下書き」「完成版」を区別する意義もあるようです。
押印を廃止したとき、AとB、どちらが下書きか、完成版かが特定できず、紛争が増加する可能性がある。
と、危惧されているようですが、遺言書の性質上、最終記載が有効となるため、マイナンバーカードの署名用電子証明書による署名をした年月日時分秒で特定すれば解決です。
デメリット③:公的個人認証で使うパスワードの真意性
デジタル遺言書になった場合に課題とされている点3つ目は、本人が作成したという真意性です。
利用者証明用電子証明書や署名用電子証明書のパスワードを知らせていた場合、「遺言の内容を自分の有利な内容に変更させた!」などと、争族になる可能性があります。
こういったケースはまさに死人に口なし。証明するのも難しいところでしょう。
しかし、この点は、現在も「実印」や「印鑑カード」を他人に管理して貰っていた場合となんら変わらないため、そうハードルは高くないでしょう。
ただし、相続が発生するとマイナンバーカードの電子証明書が失効するため、相続手続きに使えない点をどう解決していくかが課題でしょう。
デメリット④:PCやスマホ利用者しか利用できない
デジタル遺言書になった場合に課題で、最も分かりやすいデメリットは、PCやスマホ利用者しか利用できない点です。
しかし、そもそも、デジタル遺言書は、PCやスマホを利用していない方を対象としたサービスではありません。
デジタル遺言書は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」に加えた、新たな遺言方式として追加されることでしょう。
PCやスマホを利用できない方は、今までどおり、手書きで「自筆証書遺言」を作成することになるでしょう。
デメリット⑤:申請に証人2名必要かも…
デジタル遺言書になった場合にデメリットとなりそうな点5つ目は、デジタル遺言書申請に証人2名が必要かもしれないことです。
政府が各国のデジタル遺言書の対応状況について調査した結果、対応しているのはアメリカのみ。
しかもアメリカでは、デジタル遺言書の申請に、証人2名を必要とするルールになっているようです。
他国に倣って対応を検討しそうな日本は、証人が必要になるかもしれません。(それって、公正証書遺言と変わらんやん…泣
海外の遺言書との比較
ドイツ | フランス | アメリカ | イギリス | 韓国 | 台湾 | |
---|---|---|---|---|---|---|
本文 | 自署 | 自署 | 自署 | 印刷可 | 自署 | 自署 |
財産目録 | 印刷物可 | 自署 | 自署 | 印刷可 | 自署 | 自署 |
署名 | 〇 (必要) | 〇 (必要) | 〇 (必要) | 〇 (必要) | 〇 (必要) | 〇 (必要) |
押印 | × (不要) | × (不要) | × (不要) | × (不要) | 〇 (必要) | × (不要) |
証人 | × (不要) | × (不要) | × (不要) | 証人2名 | × (不要) | × (不要) |
デジタル遺言 (電子文書) | × (非対応) | × (非対応) | 〇 (証人2名の対面で 電子署名・証人も署名) | 不明 | × (不可。 録音は可) | × (不可。 緊急時音声は可) |
遺言方式 | 公正証書 | 公正証書 秘密証書 国際遺言 | 認証 公正証書 自己証明 | 不明 | 公正証書 秘密証書 口授 | 公正証書 秘密証書 代筆 |
日本と海外で、デジタル遺言書の対応状況を比較すると、上表のとおりです。
許容されているのは「アメリカ」のみ。
しかも、証人2名の前で電子署名を行い、立ち会った証人2名も署名を行う必要があるという。
日本でもデジタル遺言書の申請で証人が必要となってしまった場合、おひとり様が増えている日本において、デジタル遺言書が流行ることはないでしょう。
ぬくぬくも、もし証人が必要となるなら、デジタル遺言書は作成しません。
デジタル遺言書はいつから?
日経新聞によると、2024年3月を目標に方向性を提言予定、とのこと。
したがって、デジタル遺言書が現実になるのは2024年度以降ということになります。
まだまだ先の話ですね。
さいごに:デジタル遺言書は一般的なものになるのか?
第2回 デジタル基盤ワーキング・グループ 議事次第に基づき、デジタル遺言書の検討状況について書いてきましたが、イメージはつきましたでしょうか?
もし、デジタル遺言書になり、死亡・相続ワンストップサービスとして紐づけば、相続人が死亡届を提出したら、あなたが指定した相続人へメールなどで「法務局に遺言書が保管されてますよー」と通知が行き、相続手続きが完了している!なんて未来が来るかもしれません。
そうすると、誰しもデジタル遺言書を残していくのが一般的になるかもしれませんね!
今後も検討状況を注視しながら、本記事を更新していきます。
以上、ご参考になれば幸いです。
参考記事
- 日経新聞 デジタル遺言制度を創設へ 政府、ネット作成・署名不要
- 内閣府 規制改革推進会議 第2回 デジタル基盤ワーキング・グループ 議事次第(令和4年3月1日(火))